消防法と建築基準法!
オフィス作りで考慮が必要な通路幅とは?
オフィス作りをするときには、せっかくなら働きやすく快適なレイアウトをしたいものですよね。
しかし、考えなくてはいけないのが、通路幅や避難設備、消火設備などの問題です。
特に通路幅については、避難経路を確保するためにはっきりと基準が定められています。
消防法と建築基準法による規制は、万が一、火災などが起きた場合に備えて決められているのです。
そのため、規制の内容についてはしっかりと理解しておく必要があります。
ここでは、通路幅などの規制について解説いたします。
1. オフィスレイアウトで通路幅の確保は必須
オフィスレイアウトをする際に、考えるべき問題は山ほどあります。
応接室や会議室を設置したり、来客に備えて見栄えをよくしたりすることも重要でしょう。
「生産性を上げるために機能的なオフィスにするか」「気持ちよく働けるおしゃれなオフィスにするか」も悩みどころです。
しかし、効率よく働ける作業動線を確保するためには通路幅が重要になります。
みんなが通るメインの通路のほかにも、デスクとデスクの間や、デスクと壁や棚などの間にある通路の幅も考えなくてはいけません。
また、オフィス内に会議室や応接室など独立した部屋がある場合は、廊下というものが生まれます。
快適なオフィスにするためには、それらの通路幅をしっかりととる必要があるのです。
通路の幅には、いろいろなバリエーションがあります。
理想的なのは、成人男性が通常の歩行ですれ違える幅です。
少し狭くなると、片方が横向きになることで通常の歩行をしている人とすれ違える幅になります。
最も狭いのが、人ひとりが通常の歩行で通ることができる幅です。
快適に仕事をするためには、成人男性が余裕をもってすれ違える幅が理想となります。
オフィスの広さが許すのならば、この幅を基準にして問題はありません。
しかし、十分な広さを確保することが難しい場合もあるでしょう。
また、上司が座っているうしろを気軽に通るのは望ましくないという理由から、あえて通路幅を狭くするというケースもあります。
いずれにしても、法律で定められた通路幅を確保することは必要不可欠です。
2. 建築基準法で定める廊下の幅とは?
オフィスレイアウトに関係がある法律というと、真っ先に建築基準法と消防法を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
建築基準法は、建物の最低基準を定めている法律です。
建築基準法施行令第119条に、廊下の幅についての規定があるので必ず守るようにしましょう。
ただし、建築基準法に定められている廊下の幅は、廊下の両側に部屋がある場合と片側だけに部屋がある場合とでは違いがあります。
廊下の片側にしか部屋がない場合の幅は1.2m以上、両側に部屋がある場合は1.6m以上です。
この場合の廊下の幅は、内法の寸法なので注意しましょう。
内法とは、建物の内側にある壁の表面と、向かい側にある壁の内側を測る方法です。
建物の面積や、出入り口や廊下の幅を測る場合、壁の外側から外側、中心から中心、内側から内側など、どこを測るのかで寸法が変わってきます。
なぜなら、壁には厚みがあるからです。
そのため、どの寸法で測るのかを確認をする必要があります。
建築基準法による廊下の幅を考える際は、内法で測るのが一般的です。
ここで問題となるのは、柱などが廊下の内側に出っ張っている場合です。
廊下には、柱などが出っ張っているために所々幅が狭くなっていることがありますよね。
建築基準法では廊下の幅を内法で測るので、柱などがある場合は最も狭い部分の幅で測ります。
3. 消防法には通路幅の規定がない
建築基準法と並んで、オフィスレイアウトを考える際に守らなくてはいけない法律に、消防法があります。
消防法は、火事になった場合に備えて制定されている法律です。
しかし、消防法には一般オフィスの通路幅についての規定はありません。
消防法で定められているのは、百貨店など物販を行う店舗の通路幅についての規定です。
そのため、一般オフィスのレイアウトを考えるときには、建築基準法の条文に従って通路幅を決めるようにしましょう。
百貨店など物販を行う店舗の通路幅を決める際も、基本的には建築基準法の基準に従うようにします。
なぜなら、百貨店などで規定される通路幅を、建築基準法が定める通路幅が満たしているからです。
そのため、建築基準法の通路幅に準じていれば問題はありません。
4. 消防法は避難経路の確保を求めている
建築基準法では、建物としての最低基準を満たすための通路幅を定めています。
しかし、消防法が求めているのは、通路幅よりもいざというときの避難経路の確保ができているかどうかです。
建築基準法は、シンプルに考えると書いてあることを守るだけでよいでしょう。
ところが、消防法はそれほど単純ではありません。
たとえば、十分な通路幅がある廊下に大きな荷物がいつも置いてあったらどうなるでしょうか。
これでは、火災が発生した場合などの緊急事態の避難経路が確保されているとは言えませんよね。
実際に、避難経路に荷物が山積みの状態で火災が起こり避難経路を確保できなかった火災事故も少なくありません。
このようなことがないように、消防法では、必要に応じて立ち入り検査があるのです。
立ち入り検査の際、オフィス家具や備品などが通路に置いてあり通路幅を狭めている場合は、指導が入る場合もあります。
また、オフィス内のデスクとデスクの間の通路幅には明確な規定はありませんが、通行の妨げになるようなものを置いて通路幅を狭くするのはよくありません。
みんながよく通るメインの動線となる通路には、十分な幅が必要だということにも気をつけましょう。
必要に応じて、所轄の消防署に相談や確認をするという方法もあります。
5. 災害を大きくしないために消防法で定められていること
建築基準法や消防法では、火災が発生したときに、それ以上災害を大きくしないためのさまざまな取り決めがされています。
たとえば、火や煙が広がらないために「防火区画や防煙区画を設ける」「内装に制限を加える」「排煙設備の設置を義務付ける」など行っているのです。
防火区画とは、火がそれ以上広がらないように決められているものです。
防火区画がないと、火がどこまでも広がってしまいます。
そこで、一定の面積ごとに防火区画を設定し、火が燃え広がるのを抑えるのです。
どれくらいの広さを防火区画しなくてはいけないのかは、壁や天井の下地や仕上げの材料、オフィスが何階にあるか、スプリンクラーがあるかないかによって決まります。
防火区画には、耐火構造の床や壁、防火戸が必要です。
防火区画をして火が燃え広がらないように対策をしても、その区画の中で内装などに火が付き、燃え上がってしまっては意味がありません。
そのため、一定の規模以上のオフィスでは内装の制限がされています。
内装制限とは、火がそれ以上燃えないように、内装仕上げ材の防火性能が決められているものです。
火災の際には、火と同じように煙の対策もする必要があります。
なぜなら、煙が広がったり充満したりすると、人の避難が難しくなるからです。
場合によっては、命にかかわるケースになる可能性もあります。
そのため、防火区画と同じように防煙区画もしなくてはいけません。
また、排煙設備も設置し、煙が充満しないようにしておくのです。
防火区画や防煙区画、内装制限、排煙設備の設置などは、通常は建物を設計する段階で考えるべき問題です。
しかし、オフィスレイアウトを考える際に、改装工事が必要な場合もあります。
そのときに、これらの区画や設備の撤去などが大変にならないようにする必要があるのです。
また、場合によっては新たに設備を追加しなくてはいけなくなるケースもあります。
消防法では、このような区画や内装制限、排煙設備の設置などが決められているということは、しっかりと頭に入れておきましょう。
6. 消防法により設置が義務付けられているものは?
消防法は、火災から命を守るために制定されているものです。
そのために、さまざまなことが消防法によって決められていますが、なかには設置が義務付けられているものもあります。
消防法で対象と定められている建物に設置が義務付けられている設備や備品は、「消火設備」「警報設備」「避難設備」「消防活動用設備」の4つに分けることができます。
消火設備とは、水や消火剤を使って消火を行うための、機械器具や設備のことです。
代表的なものには、消火器があります。
屋内・屋外消火栓設備や、スプリンクラー設備も設置が義務付けられている消火設備です。
警報設備は、火災を感知したり通報したりするための装置や設備を指します。
自動火災報知設備やガス漏れ火災警報装置、火災通報装置などが、警報設備にあたります。
避難設備とは、火災などの災害のときに避難をするための機械器具や設備です。避難器具や誘導灯、非常階段などの設置が義務付けられています。
消防法によって設置が義務付けられているものの、オフィスで働く人たちが使うことのないものが、消防活動用設備です。
排煙設備や連結送水管などが、消防活動用設備にあたります。
これらの設備は、消防隊が消火活動の際に使用します。
7. パーテーション設置で注意が必要な点
パーテーションとは、部屋の仕切りや間仕切りのことです。
パーテーションを設置することで、オフィスレイアウトのバリエーションが広がります。
たとえば、パーテーションを設置することで、執務室と廊下を分けたり、部署別に区画を分けたりすることもできるのです。
ただし、消防署への届出が必要になる場合があるので注意が必要です。
パーテーションを設置する際には、「避難階段までの距離」「内装制限」「排煙計画」「スプリンクラー設備」の4つに注意をする必要があります。
特に気をつけなくてはいけないのは、パーテーションの高さが天井まで届くような場合です。
天井までの高さがあるパーテーションは、壁として扱われます。
また、そのようなパーテーションで囲まれた空間は、新しくできた部屋とみなされるのです。
そのため、消防署への届出が必要になります。
また、天井までの高さがあるパーテーションを設置すると、避難階段までの距離が変わってしまい、警報機やスプリンクラーの設置場所や設置しなくてはいけない数も変わってくるのです。
パーテーションを設置する場合には、十分に注意をしましょう。
8. 事務所移転でも消防署への届出が必要
事務所移転の際には、通路幅やパーテーションの設置以外にも、防火管理者の変更届を消防署へ届出する必要があります。
防火管理者とは、防火管理上必要な業務を行う人のことで、国家資格が必要です。
不特定多数の人が出入りする建物など防火対象物に事務所が入っている場合や、事務所そのものが防火対象物である場合は管轄の消防署に防火管理者の届出をする必要があります。
ただし、資格を持っていれば誰でも防火管理者になれるというわけではありません。
防火管理者は、管理的または監督的な地位の人である必要があります。
なぜなら、防火管理者は消防用設備の点検や整備だけでなく、避難訓練の実施や収容人員の管理などもしなくてはいけないからです。
防火管理者の変更があった場合は、管轄の消防署に届出をしなくてはいけません。
同じように、事務所移転の際にも、防火管理者の届出をする必要があります。
気をつけなくてはいけないのが、移動先の管轄消防署だけではなく移動元の管轄消防署にも届出の必要があるという点です。
事務所を移転するときには、新しいオフィスのことで頭がいっぱいになりがちです。
そのため、移動元の管轄消防署へ防火管理者の届出を忘れないようにしましょう。
新オフィスが消防計画の必要な建物である場合は、消防計画の届出も必要になります。
消防計画とは、火災が発生しないよう発生した場合は被害を最小限に抑えるための計画です。
従業員の数や設置されている消防設備の種類、点検や避難訓練の回数などを、所轄の消防署に提出をします。
自衛消防隊を組織し、その構成やそれぞれの役割なども消防計画書に記載しなくてはいけません。
消防計画が必要な建物とは、防火管理者の選任が義務付けられている建物すべてのことです。
つまり、すべての防火管理者は、消防計画の届出をする必要があります。
防火管理者の選任だけで、消防計画の届出をしなくていい事務所というのはないのです。
消防計画は、事務所移転と同時に届出が必要です。
移転前には書類の作成をしておく必要があるので注意しましょう。
9. 消防法は常に順守していることが重要
通路幅などについて、いくら建築基準法を順守した事務所であっても、それだけでは十分ではありません。
物の配置などによって、必要な通路幅が確保できていないケースもあるのです。
この場合は、消防法でいう避難通路の確保ができていないことになります。
消防法は、大切な命を火災から守るためのものです。
従業員の安全のためには、普段から消防法を順守している必要があります。
建築基準法と消防法をしっかりと把握したうえで、安全面にも配慮したオフィスを考えていきましょう。